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あの日、ニューヨークでなにがあったのか

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 あとになって彼のいったところによると、彼はその日の午後、ぼくのところに三度電話をかけたそうだ。そして、ニューヨークにいるかも知れない友人たちにも、一人のこらず電話をかけたという——長い間あっていない男や女の子。大学時代に画家のモデルをしていた少女——彼女の電話番号は、住所録の中で、インクの色が色あせていたが——中央電話局では、そんな電話局など、もうなくなっていると教えてくれた。ついに彼の電話は、郊外のほうにも及ぶようになった。彼は、強硬な態度の執事や女中を相手に、短い言葉のやりとりをしたが、結果は失望に終った。何々さまは、乗馬に、水泳に、ゴルフに、先週ヨーロッパに船でお出かけになっていて、今おいでになりません。どなたからの電話だと申し伝えればよろしいでしょうか。
 その夜、ひとりですごさなければならないのは、ほんとうに耐えがたいことだった——少しでも暇ができたらと、心の中でひとり計画をたててみても、孤独が強制的に押しつけられた場合には、その魅力を完全に失ってしまう。たしかに、ある種の女性は、いつでもいた。しかし、彼の知っている女性は、今のところ姿を消してしまっていた。大体、見も知らぬ女に金を払って、ニューヨークの一晩を共にすごすということなど、彼の頭には、決してうかんでこなかった——そんなことは、何か恥ずべき秘密なこと、ほうぼうをまわっているセールスマンが、知らない町でやる気晴しの一種だと、彼なら思ったにちがいない。

B06 地球の歩き方 ニューヨーク 2014~2015 (ガイドブック)

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